目次
【職人巡り旅】制作3ヵ月!実用性と美しさにこだわる和竿職人大石稔さん
こんにちは。カラクリジャパンライターの梅グミです。
みなさんは、釣りをしたことがありますか?
私はないのですが、子どもの頃、年上の男の子たちが竹の棒に糸を付けた自作の釣り竿で、ザリガニを釣っていたことを思い出します。
現代、釣りにはカーボン製の竿を使うのが一般的だそうです。
しかし、あえて竹を使い、伝統の技で芸術品とも言える洗練された「和竿」を作り続ける職人さんがいます。
釣り好きからも支持される和竿を作り続ける職人、大石稔さんの元を、巡り人こまのさんが訪ねました。
江戸の暮らしに欠かせなかった伝統工芸「和竿」とは?
「和竿」は、釣り竿のうち、日本独自の伝統技術で作られた竹竿を指します。
西洋から釣り竿が持ち込まれる以前、明治時代初期までの国産の竿は、すべて「和竿」ということになります。
和竿は竹のほかに、絹糸や漆を使って作られます。
この日本独特の製法の原点になっているのは、戦国時代の矢づくりだったとか。
矢を作るときに、竹の形を直す技術が、和竿に活かされました。
江戸時代には、職人である竿師たちが技を磨き、漆塗りを施すなど、改良を重ねるようになりました。
その結果、 完成した和竿は、釣りに使われるだけでなく、芸術品として高く評価されるように。
釣り竿が芸術品として扱われているのは、世界でも日本くらいだそうです。
自然にとけこみ、季節や魚に合わせ、釣りで使われた和竿
和竿での釣りが当たり前だった当時、釣り人たちは、季節に合わせた釣りをしていました。
野菜や果物と同じように、魚にも旬があります。
和竿の職人たちは、釣る魚に合わせて使い分けができるよう、竿を作ってきました。
趣味の世界。
釣果はともかく、和竿を振って釣りをする姿は、風流ですよね。
釣り好きなら誰もが一度は憧れる!和竿の持つ魅力とは
世界に1本だけ、オンリーワンの竿
和竿は重そうに見えて、実はけっこう軽いもの。
1日振っても疲れにくいのが特徴です。
自然にある竹を使っているので、同じものは作れませんが、オーダーメイドなので、使う人の用途や好みに合わせて理想の竿に仕上げることができます。
細部にまで職人が美にこだわる芸術品
和竿の主な材料である竹。
種類はもちろん、竹の節の間隔、漆の塗り方など、職人が細部にこだわって、妥協しない美しさを追求して仕上げています。
工場で作られた竿には出せない美しさは、釣りを趣味にする人たちの間で楽しまれています。
優れた耐久性
見た目の良さから漆塗りが施されていると考えられがちですが、実はちがうのです。
竹でできている和竿は、使っていくと曲がってしまうことがあります。
曲がった竹を修理するには、火を使い、竿の温度を高くする必要があります。
漆塗りは熱に強いため、劣化することがないのだそうです。
和竿は複数のパーツからできているものが多いため、折れても、修理がしやすいそう。
他のパーツと組み合わせの良い竹を選ぶので、大量生産品でよく言われてしまう「もう部品を生産していない」「部品の在庫がない」という理由で修理を断られることはありえないのです。
乾拭きするなど、汚れをしっかり取って、きちんとメンテナンスをしていれば、ずっと長く使えるのも和竿の魅力です。
江戸時代から続く伝統工芸「和竿」の製作工程を見学!
オンリーワンの釣り竿「和竿」はいったいどうやって作るのでしょうか?
材料になる竹を選ぶ
材料に使う竹を、どんな種類の魚をどのような方法で釣るかに合わせて、選びます。
仕入れるのは主に、布袋竹が九州から、淡竹は千葉からだそうです。
油抜き・火入れ
竹を火鉢であぶります。
熱すると、竹がもともと持っている油が汚れと一緒に浮き出てきます。
布でふいて、きれいにしていかなくてはなりません。
あぶって加熱した竹をまっすぐに直していきます。
竹に火を入れることで、竹の強度も上がるのだとか。
穂先の加工
釣りたい魚や釣り方、釣る人の好みなどに合わせて、やすりで削り出します。
漆塗り
漆を手でまんべんなく刷り込んでいきます。
漆はかぶれやすいので、手袋を付けているそうです。
血が出てもかきむしっちゃう
塗り終わったら、漆をきれいに拭き取ります。
「1回塗った漆を拭き取る?」と疑問に思いましたが、これは「拭き漆」という漆塗りの技法のひとつだそうです。拭き取ることで、ごく薄く漆を塗ることことができるのだとか。
拭き終わった竿は、湿気を入れた室に入れて、乾かします。
冬はそのままでは乾かないので、やかんをのせて、保温もしているそう。
サラリーマンを経験、自分を試したくて父と同じ和竿職人の道へ
和竿は先代のお父さんがやっていたそう。
サラリーマン時代の大石さんは「こんなきたない仕事はやらない」と思っていたのだとか。
実際に働いてみたら、上下関係が苦手で、自分はサラリーマンに向いてないと気づいたらしい。
今までのお客さんは、お父さんについていたお客さんで、自分のファンではなかった。
自分にお客さんが新しくついてくれるまで、さらに10年かかったそう。
そんな苦労を乗り越えてきた大石さんですが、60歳をすぎたくらいから、竿づくりで、自分の限界を感じたことがあった。
そこで、大石さんは「じゃあ楽しんでやろう」と、気持ちを切り替えたところ、竿づくりが苦痛でなくなった。
大石さんは現在71才。
よく「一生勉強です!」みたいに言うけど、ほんとその通りだなって思う
未来へ和竿を残したくて、おしみなく伝統工芸の技術を伝授
伝統工芸の職人の世界は後継者がいないとよく聞きます。
和竿の技術、後継者はいるのでしょうか?
大石さんの教室では10年以上経験を積み、なんと10数名以上がプロ、セミプロとして活躍しています。
大石さんの教室の参加条件はユニーク。
条件の1つに「余り器用では無い人」というのがあります。
器用な人はあっという間にすぐできてしまうけれど、そこからは上達しない。
不器用な人ほどコツコツ頑張って努力で上達するのが理由だとか。
不器用で何かを習うことをあきらめた経験がある人も多いはず。
そんな人にも門戸を開いている大石さんだからこそ、技を受け継ぐお弟子さんがたくさんいらっしゃるのかもしれません。
和竿職人・大石稔さんの教室はこちら⇒品川和竿 和竿作り教室 『濱川』